カタカリ舞踊の楽しみ方


 カタカリは、南インドのケーララ州の芸能です。年に一度、お寺で行なわれる村祭りに際して、徹夜で上演されます。一月から三月の乾期がシーズンです。歌舞伎も昔は四谷怪談など上演する際、お岩さんに焼香してから観劇したといいますが、カタカリもより宗教的な雰囲気の中、神前に奉納する芸能として発達しました。
 もちろん、都市部では劇場で入場料を払って見る公演もありますが、寺院の境内や休耕田に臨時の舞台を作って行なうことが多いです。食べ物やおもちゃ、腕輪や指輪の屋台がたくさん出て縁日のような楽しさです。お年寄りや子供は役者を見るというよりは、神様を拝んだり、恐いもの見たさでおそるおそる魔物を見ているというかんじです。
 もともと一年の豊作や家内安全を祈願する厄祓い、悪魔祓いの儀式の伝統に根ざしてますので、演目の多くが魔物や悪漢を退治する場面で終わります。だいたいその頃になると観客の多くが地面の上に寝ているのですが、たたき起こすような太鼓の音、ほら貝の音、時には爆竹や花火で戦いのシーンを演出し、夜明けを迎えます。魔のはびこる夜が終わると村人は眠い目をこすって家路につきます。
 こうした勇ましい場面もさることながら、美しいラブ・シーンも売りです。あでやかな女形の舞いで始まる演目も多いです。されに、顔や目の表情や手の印相(ムドラー)による高度な演技術(アビナヤ)も見ものです。カタカリにはセリフがなく、歌手がストーリーを歌いますが、歌のなかで示された情景をもう一度なぞるようにマイムで表現して劇は進行してゆきます。
 いいなぁ、ウケていると思ったら、役者は即興的に何回でもその場面を味わうように説明し、話をふくらませて見せます。優れた役者はインド神話の造詣が深いので、たとえ始めての演目でもぶっつけ本番で踊ります。もともとカタカリにリハーサルはありません。長年の修業ですべてをマスターしてから舞台に立ちます。
 見る方も一から勉強しないとなかなか理解できませんが、全部、理解しようと思わないでもよいのです。ヘンなモノが出てきたなあと童心にかえって素直に驚いてください。異人の現れをそっくりそのまま受けとめて下さい。よーく見て頭の中にイメージを植え付けてください。そのことによってあなた自身が豊かになる。潜在意識に眠る貴方の力が甦ってきます。福を与えます。そんなきっかけになればよいのです。(河野亮仙)

*ラーマーヤナについて*
 インド二大叙事詩の一つヴァールミーキ作『ラーマーヤナ』は二万四千詩節からなる美しい物語で、古くからインドのみならず、東南アジアの人々にも愛されています。
 ラーマ王子は実はヴィシュヌ神の化身で世の中に悪がはびこっている時、ラーヴァナ王などの魔物を退治するために地上に姿を現しました。ラーマはカウサリヤー妃のもとダシャラタ王の長男として生まれましたが、次男のバラタはカイケーイーの、双子のラクシュマナとシャトルグナはスミトラーの子として生まれました。
 ところが、王位継承をめぐり第二王妃のカイケーイーが謀って実子のバラタを王位につけラーマを十四年間追放します。弟ラクシュマナとシーター姫がラーマに付き従います。
 放浪の間、魔女シュールバーナカーが男前のラーマに恋をしてしまいますが、相手にされず弟のラクシュマナに鼻を切り落とされ侮辱されます。魔女は鬼である魔王ラーヴァナに頼み、魔物マーリーチャが金色の鹿に変身してシーター姫を誘い出す事になります。実は魔王ラーヴァナもシーター姫に横恋慕していたのです。旅の僧に身をやつした魔王は姫を誘拐してランカー島(今のスリランカ)に閉じこめます。
 猿族が四方八方手を尽くしてシーター姫の捜索にあたります。ハヌマーンがランカー城に姫を見つけ、一度捕まりますが脱出して城に火をつけて帰ります。いよいよラーマ王子の軍勢と魔王ラーヴァナの軍と戦いが始まります。ラーマは魔王を破り、シーター姫を連れ戻してアヨーディヤー国に帰り、人々は歓喜して迎えます。ヴァシシュタ仙がラーマの頭に聖水を注いで帝王となります。これがラーマの戴冠式です。

*マハーバーラタについて*
 ヴィアーサ作とされる『マハーバーラタ』は『ラーマーヤナ』の四倍の長さで、中心となるバラタ族の従兄弟どうじの骨肉相食む戦いのはか、様々な伝説・物語を含む聖典です。白子のバーンドゥ王が死ぬと盲目のドリターラーシュトラが王位につきます。バーンドゥ王にはユディシュテイラ、ビーマ、アルジュナ、ナクラ、サハデーヴァのバーンダヴァ五王子がいました。五王子はドラウパディーを共通の妻とします。盲目の王にはドゥルヨーダナを始め百王子がいました。
 やがて、高徳のユディシュテイラが王位を継承するとカウラヴァ側の百王子がねたんで策略をめぐらします。ドゥルヨーダナはユディシュテイラをサイコロ賭博に誘い、イカサマで王国も財産も何もかも奪ってしまいます。五王子は十二年間の放浪の旅に出て、十三年間を誰にも素性を知られることなく過ごさなければいけないことになりました。
 そして、十三年目ユディシュテイラはカウラヴァ達に王国の返還を求めました。クリシュナが間に立ちますが、ドゥルヨーダナはこれを断り、十八日間にわたる大戦争が勃発します。カウラヴァ軍の将ビーシュマが倒れる。アルジュナの息子アビマニュは一人で敵陣に切り込み討ち死にする。ビーシュマの後を受けた将ドローナが死ぬ。彼に代わった無敵のカルナも死ぬ。ドラウパティーを辱めたドゥフシャーサナもビーマに倒され、最後にドゥルヨーダナも破れカウラヴァ軍は壊滅。バーンダヴァ軍も五王子以外に無事な者はほとんどありません。ユディシュテイラは馬祭りを行なって罪を浄め、自らは隠者として過ごします。アルジュナの孫パリクシットが王位を継承しました。







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